経歴のスタート地点
大手SIerに新卒で入社し、いま3年目。最初の1年は研修と保守運用、2年目から大手金融顧客の基幹システム再構築プロジェクトに配属された。要件定義の議事録取りから始まり、基本設計、詳細設計、テスト、本番移行まで一通り経験した。
仕事は嫌いではなかった。設計書を緻密に書き上げる達成感もあった。けれど、いつも引っかかっていたのは、お客さんとの打ち合わせで「業務がこう変わってほしい」「組織のここを変えたい」という話が出ても、自分たちは「で、機能としては何を作りますか?」に話を引き戻すしかなかったことだ。経営課題の議論には踏み込めない位置にいる——その不全感が、3年目になってどんどん大きくなった。お客さんの本当の困りごとは、設計書の前段階にあるのに、私たちはその手前で止まっていた。
最初のつまずき
ITコンサルタントに転身したいと考え始めて、まず何が足りないのか分からなかった。「ロジカルシンキングが必要らしい」と聞いて、業務の合間に本屋で『ロジカル・シンキング』を立ち読みした。MECEとか、So What/Why So?とか、概念は分かる。でも、いざ自分の提案資料を書こうとすると、構造的に考えられない自分がいた。
決定的だったのは、社内の新規事業提案コンテストに応募したときだった。技術的な実現可能性は書けた。けれど「なぜその事業が経営インパクトを生むのか」「競合と比べた優位性は何か」「3年後のPLはどうなるのか」——経営の言葉が、私には全く備わっていなかった。一次選考で落ちた。フィードバックには「実装の話に終始しており、ビジネス論点の構造化が不十分」と書かれていた。
転機
転機は、たまたま参加した若手向けのコンサル業界カンファレンスだった。登壇した30代のコンサルが、SIer出身者だった。彼が言ったのは「実装を知っているコンサルは、机上の空論で終わらない提案ができる。だからSIer出身者の市場価値は、思っているより高い」という言葉だった。
私が「武器がない」と思っていた経験は、実はコンサル業界では「実装感のある人材」として評価される——その視点の転換は大きかった。SIerでの3年間を「下積み」ではなく「実装現場の解像度」と捉え直して、転職準備を本格的に始めた。週末は読書、平日の通勤時間はオーディオブック、業務中は提案メモを構造化して書く——というサイクルを半年回した。
いま振り返る選書
ITコンサルへの転職活動を始めてから1年、計画的に本を読み込んだ。
- 『コンサル一年目が学ぶこと』:思考と作法の基本が網羅された一冊。当たり前のことが書いてあるが、「当たり前を毎日やる」のがどれだけ難しいかを実感した。
- 『ロジカル・シンキング』:MECEとピラミッド構造を、頭でなく手で覚えるまで写経した。提案資料の骨格作りが劇的に変わった。
- 『考える技術・書く技術』:日本語の論理構成を矯正してくれた。SIerの設計書とは全く違う「結論ファースト」の世界。読み終えた直後、自分が書いたメールを全て見直して書き直したくなった。
- 『仮説思考』:情報を集めてから考えるのではなく、仮説を先に立てて検証する——コンサルの思考順序を学べた。
- 『問題解決プロフェッショナル』:イシューツリーやMECE分解を、ケーススタディベースで叩き込んだ。
- 『イシューからはじめよ』:何度も読み返した。「解くべき問題を選ぶ」段階で勝負の8割が決まると痛感する一冊。
- 『ストーリーとしての競争戦略』:戦略を「論理の連鎖した物語」として捉える視点が衝撃的だった。
- 『ITストラテジスト 教科書』:技術と経営を接続する資格学習として最適。SIer経験と相性が良い。
現場での実践
読書と並行して、社内の提案活動で「コンサル風の資料」を作る練習を繰り返した。技術設計書ではなく、エグゼクティブサマリーから入り、論点を構造化し、推奨アクションで締める形式。最初は時間が3倍かかったが、半年で型が体に染み込んだ。
並行して、社内の有志で開催されたケーススタディ勉強会に毎週参加した。お題に対して30分で論点を構造化し、5分でプレゼンする練習。最初は議論で何も発言できなかったが、半年後にはファシリテーター役を任されるようになった。
これから挑む人へ
SIer出身でITコンサルを目指す若手に伝えたいのは、実装の経験は決して捨てるなということ。机上で美しい提案をしても、実装段階で破綻するコンサル提案は世の中に溢れている。SIer時代に染み付いた「動くものを作る」感覚は、提案の地に足のついた現実性として武器になる。
ロジカルシンキングは、本を読むだけでは身につかない。毎日の議事録、メール、提案書を「結論ファースト」で書く訓練を、地味に積むしかない。3年目の自分が、いま振り返って唯一「やってよかった」と言えるのは、その地味な訓練を毎日続けたことだけだ。
